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どうしてそんなに速いのか?というトウェイの問いに、巡回者は空を飛んでいるからだと答えていた。あれは季節が何巡もする前だった。スイが気になっていたホルンには、トウェイがそれ以上の問いを巡回者に投げたかどうかわからない。
「変わりはないか?」
「ああ」
巡回者の男はホルンに一瞥をくれると、小屋を回り始めた。点検には時間がかかる。スイを探そうと、ホルンは穴へと向かった。
一年前のことを思い出す。
トウェイは急に姿を消した。ある夜、三人が暮らす小屋に戻らなかった。
もう何日もトウェイは氷にぽっかりと開いた穴をじっと見ていた。それは湖の水が流れ込む穴だった。その穴が現れると少しずつ湖は小さくなり、最後にはすべての水が穴の中へと消えてしまう。そして穴だけが残される。深い青の色の奥に何があるのか、ホルン達は知らなかった。ただすっかり水が消えてしまうのだから深いはずなのだ。
それから。
トウェイがいなくなった穴を、スイはずっと眺めていた。水がなくなった後も、ずっと。
湖の水を全て飲み込んだ穴は、スイが眺めているせいで消えないんじゃないかと思えるほどに。
『スイ、先に眠るよ』
『うん』
そんな会話を何回か繰り返したころ、その年の巡回者がやって来た。ホルンが何かを言う前に穴の縁に座るスイへと近づき、その隣に立った。
『おや、もう一人は?』
『トウェイは穴の向こうへ行ったの』
スイが答えた。
『氷の穴に落ちたか』
『穴の向こうはどうなっているの?』
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