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氷の軋む音がする。
「ねえ、スイ。トウェイは戻らないと思うよ」
「わかっている」
スイの視線は動かなかった。地の底から響くような音をじっと見ていた。スイの白い肌は氷の光を反射して眩しいくらいだった。トウェイともホルンとも違う色だった。
「ホルン、私のことはほうっておいて」
「わかったよ。先に眠る」
君とは違って僕は物分かりがいいんだ。
そうスイにいじわるく訴えたかったわけではないが、ホルンはあえて穏やかな声を出すように努めた。案外意地っ張りなところのあるスイと、面白がって我を通したがるトウェイと付き合ううちに身に付けた声だった。調整役をやっているとホルンはずっと思っていた。けれどトウェイが消えてから、調整役だと思っていたのは自分だけで、二人はホルンの言っていることなんて気にもかけていなかったのかもしれないと思い始めていた。
とても深い青の色が氷の地に落ちていた。その色の奥にトウェイが消えてから、季節が一巡りした。長い、光といえば星だけの季節が終わり、湖が現れる季節が始まっていた。
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