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〈雪解けが待てなくて来た。これで終わる。雪が溶ける前に見つかっても君とぼくが誰であって二人がどういう関係であるかを読み解かれないように、そして君との間に結ばれた糸をぼくがどうしても解きたくなくて……〉
待たせてごめん。ぼくたちの関係を誰にも知られないように足跡を消してまわるのに時間が必要だった。浅見とも徐々に距離をおいた。彼がぼくのことをどう思っていようが気にもならない。
ぼくを探すような人はもういない。大学もやめ、アドレスも削除し、アパートも引き払って、あちこちを転々としながら雪解けを待っていた。
今春はいつもの年より早い雪解けの予報だったけれど、それさえ待てずにここにいる。
昨晩、誰にも気づかれないように町に入り明るくなるのを待って歩いてきた。雪の上についたぼくの足跡はいずれ水に変わって山にしみこんでいくだろう。
少し違った形にはなってしまったけれど、誰かに深く愛され逝きたいと言った君に同行することを許して欲しい。その誰かにぼくはなりたかったんだ。今、君とともにいくよ。
〈了〉
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