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「おはよ」
車窓から覗く見知った男の口がそう動いて、耳に付けていたイヤフォンを片方だけ外す。
車内の密度は相変わらず息苦しくて、その間を縫うようにして同僚の茅野が顔を出した。
「月曜だりーな」
「同感」
スマホを取り出し、音量を下げる。
隣に立つ茅野は、気怠げに欠伸をしながら吊り革に手を伸ばす。そしてなぜか、俺の顔を不思議そうに眺めた。
「何だよ、」
「お前さ、最近よく音楽聴いてんね」
「朝の電車が苦手なんだよ、人多いだろ」
「まあ、俺も人混み苦手だけどさ」
右側の耳から鳴り続けるリズムが、聴き慣れていない事くらい分かってる。
最近読む本の好みが変わったのも。
大して興味のないランチメニューの食材が気になるのも。コンビニでコーヒーを買う時、別の飲み物に目が行くのも。たまに空を見上げてしまうのも。
全部全部、単なる偶然だ。
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