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「にしてもさ、この時間帯でこんだけ人いるって、日本人はほんと真面目だよな」
通勤ラッシュはとうに過ぎた時刻。
フレックスタイム制の俺たちは、比較的時間に余裕のある通勤だった。
それなのに、車内は相変わらずスーツに黒い鞄を抱えた、同じような人型が埋め尽くす。
毎朝同じ電車に乗って、着くまでひたすらスマホの液晶を眺め、同じ事を繰り返して、昨日と変わらない一日を過ごす。
そして明日も。明後日も。
きっと───ずっと。
「それが安定ってもんなんだろ。日本人が好きな、平和と不変」
俺もきっとその一人。砂漠の中の砂粒と同じ。
別に何も変わらなくていい。
このままでいい。
面倒だから、そういうの。
「夢のない事言うねぇ、相変わらず」
吊り革にだらりと手を引っ掛け、茅野がカラカラ笑う。相変わらずお前は、能天気で楽天家だな。
「お前が夢見過ぎなんだよ」
「どこがだよ。めちゃくちゃ健全だ。俺は死ぬまでに煩悩の数だけ女の子と付き合う!」
「ダルいわ、そういうの」
「何が? 付き合うのが?」
「いや、『好きになる』とか、そういうのが」
割と真面目に答えた俺の顔をみるなり、茅野が吹き出した。
「ダセ~!!」
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