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「お前ってさ、いい加減な割に、ちまちま面倒な事考えてるよな」
電車が地下へと入り、ミラー状になった窓ガラスに茅野と俺が映る。眠そうな、いつも通りの俺がいて、なぜだか少しほっとする。
「何だよ、さっきから……」
「愛情だ、愛情」
車窓に映る茅野が、窓越しにウインクをしてきたせいで、危うくガムを飲み込みそうになる。
「──っ! やめろ、気持ち悪い」
「心配してんだよ、お前案外真面目だからさ。周りのリーマンみたいにちゃんとしなきゃ、とか思ってそうだし」
相変わらず欠伸をしながらこんな事を言うもんだから、正直本気で言ってんのか、適当に言ってんのか、聴く側も困る。
「別にそんな事思ってないって。俺はいつも適当だし、そう言う面倒な事は───」
「そういうとこ。素直じゃない、感情で動かない、すぐ諦める」
「意味がわからん」
「そうか? 俺は最近のお前みてると、スッゲー苛つく」
茅野の顔が、会議で企画を提案する時に見せる意気軒昂な表情をしていて、きっと何か企みでもあるんだろう、と直ぐに察した。
バカバカしいと、畳み掛ける事も出来た。
話題を変える事なんて容易い事だった。
それなのに、事もなげな顔をして、また右耳の音楽を聴く振りをした。
君も今、同じ音楽を聴いているのだろうか。
そんな事を無意識に考えて、また溜息を吐き出す。
口の中のミント味はすっかり消えて、ゴムを噛んでるみたいに不味かった。
このガムと一緒に。
燻る気持ちも、動揺している自分も、丸めてゴミ箱に捨てて、無かった事に出来れば。
どんなに楽で。
なのに、こんなに苦しい。
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