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ゴミ箱へと伸ばした手を、再び口許へと持って行く。甘い砂糖の香りが漂い、「カフェオレなら飲める」と言った君の言葉が脳裏に蘇る。
一息に、コーヒーを喉奥に流し込む。
甘くて、ほろ苦くて。
君への気持ちと、どこか似てる。
「甘いだろ」
茅野が微糖入りの缶コーヒーを振りながら不敵な笑みを浮かべていた。
「お前が買ったんだろ。加糖とか飲んだこと無いのに……」
「割と飲めるだろ?」
「まぁ、缶コーヒー程度なら」
量も少ないし、それほど苦では無いけど、美味しいとは思えない。
「同じなんだよ。意外と簡単なんだって」
「え? 何が同じって?」
ぞろぞろと周囲の人間は改札に向かって、蟻の様に歩いていた。その光景は本当に奇妙で、同じ方を向く必要があるのだ、と洗脳されているようにも思えた。
「角砂糖、7個」
微糖のコーヒーを持ち上げて、茅野がにんまりと笑みを浮かべる。
だけど俺は、その意味など分かるはずもなく、首を傾げてまた訊いた。「何がだよ」
「缶コーヒーに入ってる角砂糖はおよそ7個なんだ」
「それが、何だよ」
「角砂糖一個あたりの重さは約3グラム」
「だから何だよ、さっきから回りくど───」
「21グラム」
俺の声を遮って、茅野が声を少しだけ張った。
ほとんど人の居なくなったホームで、俺の心臓は確かに、大きく拍動していた。
「21グラムなんだよ。缶コーヒーに入ってる角砂糖の重さも。魂の重さも。同じなんだ」
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