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「やっべ、右まゆげ流しちゃった」  そのひとことで処置室に緊張が走った。それもとびきりヤな緊張が。 「先生、いまなんて……」  先生は、つられてこっちまで笑っちゃうような満面の苦笑いでこう言った。 「クランケの右まゆげ、流しちゃった」  一瞬の間のあと、僕は小声で詰め寄った。 「だから言ったでしょッ。そんなところにまゆげ置いてたらウッカリ流しちゃうって!」 「だってえ……」 「だってじゃないッ!」  ウチは生体溶剤専門の美容整形クリニックだ。  この薬を打つとなんでも溶ける。皮膚や骨でもぐにゃぐにゃのスライム状になり、形を作り替えられる。また、量を変えれば剥がしたり、新しくつけたりだってできる。  メスを使わないから衛生面にも気を遣わなくていい。痛みがないから麻酔もいらない。手軽だ。でもそのぶん、失敗すると大変な目に遭う。ちょうどいまの先生みたいに。  先生はじっと僕のまゆげをみつめてこう言った。 「こうなったら代わりを使おう」  僕はとっさにまゆげを手で隠す。 「絶対ダメッ。自分の使えばいいじゃないですか!」 「怪しまれるだろ! 処置が終わって、主治医の顔からまゆげが消えてたら変だろう!」     
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