時は怪物をも

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時は怪物をも

 右手の小指側の側面を見てみると、黒鉛が滲んで真っ黒になっていた。書き方が悪いのか、筆圧が強すぎるのか、幼い頃から文字をたくさん書くと決まってこうなる。外に出る前に予備校内のトイレで洗ってくればよかったと後悔しつつも、戻る手間を惜しんでそのまま最寄り駅への道に着いた。いつもの癖で上着のポケットに両手を入れようとしてから、はっとして左手だけをしまう。剥き出しの右手が感じ取る夜の外気はとても冷たかった。  予備校から自宅へは電車で一本。通っている高校と自宅の丁度中間に当たる駅が利用駅である。通うには便利な立地だ。しかし定期券の関係から予備校と利用駅の間には徒歩二十分ほどの距離があり、疲弊しきった状態で歩くにはうんざりするほど遠い。     
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