時は怪物をも

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 センター試験まではおよそ三ヶ月、各大学の本試験まではおよそ四ヶ月であり、それまで僕はおそらくほとんど毎日この二十分の道のりを歩くことになるのだろう。本命大学の合格通知を受け取るまで、あるいは全ての受験を終えるまで、僕は勉強以外に時間を消費してはならない。この生活に入る前は毎日のようにしていた大好きな読書も、僕の生活よりすっかり排斥してからもう半年以上が経つ。読書を断つという信念を固め当初は、果たして潤いの源泉を失した生活を自らの意志ひとつで継続することができるのかどうか、我ながら甚だ懐疑的だった。しかし気づけば僕の日々から読書はいなくなっており、そして僕は当初想像していたよりもその喪失に堪えていなかった。それ自体は嬉しい誤算だったが、代わりに受け入れがたい誤算も一つやってきたのだった。それは言うなれば思わぬところから飛び出してきた伏兵のようで、僕は想定外の打撃を受けていた。削られるものは 主に自制に要する精神力だ。僕は時折気まぐれのように去来するその伏兵と、不本意な戦いを展開していた。幸運にも今日はそいつはやって来なかった。僕の右手に付着した黒鉛の濃さがそれを証明していた。  帰宅するとすぐに食事と入浴を済ませ、自室の机と向き合った。節電のために部屋の電気は点けない。スタンドライトだけで薄ぼんやりと照らされた部屋は、隅に何者かが潜んでいるのではないかという恐怖を抱いてしまうほど不気味だ。もともと僕は暗い部屋で過ごすのは苦手だったが、今ではもうすっかり暗闇への耐性が付いてしまっている。     
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