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岐阜基地の飛行開発実験団(飛実団)が試作した、DEW(指向性エネルギー兵器)モジュール。胴体中央のハードポイントに装着されたそれは、波長が短い(=エネルギーが高い)紫色のレーザー光線を発射する。その威力は0.1秒の照射でも戦闘機の機体に穴をあけるほど強力なものだった。ただし、0.3秒分しか電池が持たない、という、現段階では実用性はかなり疑わしい代物だった。しかし、通常兵器が効かない「ナメラ」に対しては、おそらくこれ以上有効な兵器はない、と考えられた。
そして、一四○○時。
榊二尉とその僚機のパイロットである神保修三尉(TACネーム:サム)によって構成される「ロギー」(306飛行隊のコールサイン)11フライトに、とうとう出撃指令が下った。二機のF-15Jは小松基地のランウェイ24より次々に離陸していった。
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大山村上空、一万フィート。
この高度ではさすがに粘液は届かない。大きく旋回しながら、榊二尉は真下の様子をうかがう。
この高度でも、「ナメラ」の巨体は完全に識別できた。しかしそれは、山に囲まれた盆地の真ん中にいる。戦闘機で近づくのは至難の業だった。それでも、やるしかない。二尉は無線のスイッチを入れる。
「"サム"、最初の手はず通り、俺がアイボールとなる。こちらがヤツの注意を引きつけている間に、目標を撃破しろ」
「了解です、"リョウ"さん。ところで……一つ質問があるんですが」
「なんだ?」
「レーザーって、発射のコール、何なんですかね?」
「……」
榊二尉は拍子抜けする。しかし、こんな状況でも萎縮せずにこのような間の抜けたことを言ってのける"サム"だからこそ、頼りになるのだ。
「誘導兵器じゃねえんだから、フォックス・スリーでいいだろ」
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