第02章 鳳凰蝶の死

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剣術の心得のない男は、力任せに刀を振り下ろす。 切っ先は、まず花魁の美しい左頬を切り裂き、鎖骨で軌道を変え、乳房を避けるようにして、(へそ)の脇まで達した。 鮮血が飛び散り、朱音は体勢を崩す。 桜の木の根元に刀の鞘が落ちている。 あぁ、そうか、ここに連れて来たのはそういうことでありんすか。 海上の黒船から獣の咆哮にも似た砲撃音が響く。 結髪も重く、海までは首を回せない。 倒れいく朱音は、真上の天空を仰ぎ見るのが精一杯だった。 青空が黒い筋に引き裂かれる。 鳳凰蝶が空から墜ちていく。 黒い筋は広がり、ほどなく地上に降り注いだ。 朱音の身にも。 「どちらも地獄でありんすね」 朱音はこと切れた、馴染みの客が後を追う姿の確認をする暇もなく。 あれから、何日経ったのかは分からなかった。 死んだまま生きる朱音は、腐敗することもなかったからである。
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