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もしやと想い、月明かりを頼りに歩く。
記憶と一致する場所に水神様を祀った池があった。
鏡の様な水面に自分の姿を映してみる。
死装束姿であった。
震える手で白い装束を捲ると、梵字が描かれている。
傷口に触れる。
傷跡は生々しく残っているが、傷口は塞がっている。
多くの男達を虜にしてきた胸を探る。
心臓は鼓動していなかった。
温もりも失われている、踏みしめた土の温度と大差がなかった。
土饅頭は無縁仏の墓標である。
この寺は朱音が新造の頃に、亡くなった遊女を埋葬に訪れた寺であった。
「わっちは、涙すら、流せないのでありんすね……」
朱音は、自分が心中により殺され、無縁仏として投込寺に土葬されたことを理解した。
そして、この身は死んでいるのに、意識を持ち動いていることを理解し、流れぬ涙を憂いた。
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