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「ねえ、章介。これからしばらく、私と一緒に旅してみない? そうすれば何かが変わるかもよ?」
と提案した。どうするべきか、僕は少し悩んだが、どうせ旅をするのならば一人よりも二人の方が楽しいはずだと思い、小夏の提案を受け入れた。そして、翌朝ロビーで待ち合わせる約束をして、僕たちはそれぞれの眠りについた。
翌日から、僕と小夏の福岡県内を巡る旅が始まった。小夏の旅は実に自由だった。駅で見かけるパンフレットに興味のある場所が載っていればそこに行く。路線図で面白そうな駅名を見かけたら、その駅まで行ってみる。そういう場合、大抵は何の変哲もない駅で、辺りには観光地らしきものもなかった。
基本的な移動はバスや電車などの公共交通機関を使ったが、それらがなければ二人でヒッチハイクをした。当然、宿の予約なんかはせず、いつも飛び込みだ。それで宿が取れなければ、適当な場所を選んで野宿した。そんな旅を十日ほど続けて、僕たちは小さな田舎町の小さな温泉街にたどり着いた。旅館数件ほどの温泉街だが、パンフレットによれば伝統のある温泉らしく、湯治客の姿もちらほらと見える。
僕たちは老舗風の旅館の門を潜った。すぐに仲居の女性が出てきたので、僕が、
「予約してないんですが、今日は二部屋空いてますでしょうか?」
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