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と尋ねてみる。仲居は確認してみると言って、一旦奥に姿を消し、三分ほどして戻ってきた。
「あいにく、ニ部屋は空いておりませんで。一部屋ならご用意できるんですが」
仲居の言葉に、僕が戸惑う間もなく、小夏が何の躊躇もせずに、
「じゃあ一部屋でいいわ」
と答えた。まさか自分だけ旅館に泊まるのかと、不安に思いながら見ていると、
「なによ、私と一緒の部屋じゃ不満なわけ?」
と、小夏が僕を睨む。僕は慌てて首を横に振った。
僕たちが通されたのは、八畳ほどの和室だった。窓の外には田畑と小川が見え、その向こうには一面の山が広がっている。僕たちは荷物を下ろすと、畳の上に腰を下ろし、足を伸ばした。
「さて、これから何しよっか?」
「そうだなあ……」
僕が考えていると、小夏が、
「章介、変わったね。なんか、考える顔が楽しそう」
と笑顔で言う。
「そうかな? 自分ではわからないけど」
「上手く言えないけどさ、出会ったときは色んなものに縛られてる感じがしてたけど、今は自由を謳歌してるっていうかさ」
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