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特に、趣味の写真に関しては絶好調だった。中学生の頃、初めてカメラを買ってもらった僕は、すぐに写真撮影に夢中になった。撮影するのは主に風景で、最初の頃は家の近所の風景を撮影していたが、やがてそれに飽きた僕は、写真撮影のために休日になる度、山や川や海に出かけた。高校では写真部に入部して、仲間と写真の腕を競い合ったのを今でも覚えている。その頃から、僕は雑誌に写真を投稿するようになり、コンテストにも応募するようになった。僕の写真は度々雑誌に取り上げられたし、コンテストでも何度か賞を受賞したものだから、その世界では、僕はそれなりに有名人になっていた。それは、僕の自信にもなっていたし、誇りでもあった。
僕を取り巻く環境は、三十歳を迎えたその日から一変する。何が原因だったのかはわからない。もしも原因がわかるのであれば、何らかの手を打つこともできるのだが、何の対処もできないことに苛立ちともどかしさを感じることしかできない。
最初は恋人との別れだった。三十歳の誕生日、僕は恋人の雪菜とデートの約束をしていた。待ち合わせは駅前の噴水脇のベンチ。そこは、僕たちがデートをするときの、定番の待ち合わせ場所だ。約束の時刻は午後七時。一緒に食事をして、それからナイトショーを見る予定だった。
だけど、約束の時間になっても、雪菜は姿を現さない。雪菜はいつも待ち合わせに遅れてくるようなことはない。事故にでもあったのだろうかと心配していると、携帯電話が鳴り出した。ディスプレイには雪菜の名前が表示されている。急いで電話に出ると、電話の向こうで雪菜は、機械のような無感情で抑揚のない口調で、
「ねえ、こんな日に申し訳ないけど、私たち、別れましょ」
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