Photograph

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 とりあえず、これまでに行ったことのないどこかへ行ってみようと思った。幸いにも蓄えは十分にある。僕は本棚から日本地図を取り出して眺めてみる。改めて考えてみると、四十七都道府県の中でこれまでに訪れたことがあるのは、半分にも満たない。その中でも、九州と四国には全く足を踏み入れたことがない。せっかくだから、どちらかに行ってみようと思い、考えた結果、僕は九州に行くことにした。少なくとも博多までは新幹線一本で行けるという単純な理由だ。  僕は最低限の下着の替えと数冊の本、それからカメラをリュックサックに詰め込んで家を出た。駅に向かう途中、銀行に立ち寄って、ATMで十万円引き出す。大抵の支払いはクレジットカードで済むものの、いざという時に現金がないのも不安だからだ。僕はそのまま駅まで行くと、博多行きの新幹線の切符を買った。  新幹線の中は、思っていたよりもずっと混み合っている。半分くらいはスーツ姿の男性客だ。僕の隣にもスーツ姿の中年男が座っている。男は全身に疲れのオーラを(まと)い、しばしば深いため息を吐いている。僕は思わずその男に自分の姿を重ねてしまう。最近は、僕も知らず知らずのうちにため息を吐いている。きっと、他人からはこんなふうにみえているのだろうと思うと、どこか惨めで情けない気分になる。  男は新大阪駅で、他の多くの客と一緒に降りていった。新大阪駅を過ぎると、車内は一気に空席が目立つようになった。広島駅を過ぎると、更に乗客は減り、半分以上の席が空いていた。僕の隣にも乗客はいない。お陰で博多駅までの時間をゆったりと過ごすことができた。     
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