5人が本棚に入れています
本棚に追加
「いえ、僕は今回たまたま長い休みが取れたので、行ったことのない所に行ってみようと思い立っただけです。普段は仕事で、行き先を決めない旅行なんてとても……」
「なあんだ、私と違って真面目な人なんだ」
女は同志を失ったかのように、少し肩を落とし、小さくため息を吐いた。
「すみません」
特に悪いことをしているわけではないのだが、女の様子に、思わず謝ってしまう。
「あ、ごめんごめん。気にしないで」
僕の謝罪に女は笑いながらそう言ってから、
「ところでお兄さん、さっきから私の方全然見ないけど、何かあるの? 私の顔ってそんなに醜いかしら?」
と問いかけてきた。僕は慌てて首を横に振る。
「あ、そういうわけじゃないんです……」
「何よ、歯切れの悪い。何かあるんならハッキリ言ってよ」
女は勢いをつけてそう迫ると、席を一つ移動し、僕の隣に座る。そのせいで、僕はますます目のやり場に困る。
「あの……そのですね……言いにくいんですが、ブラジャーくらいはした方がいいかと。あまりにも刺激的なので」
僕の言葉に、女は、
「なんだ、そんなこと?」
と言ってから声を上げて笑う。
「女の胸なんてさ、隠すから余計に見たり触ったりしたくなっちゃうわけでしょ? 胸を曝け出して堂々としている女に痴漢を働ける男がどれだけいるっていうのよ」
最初のコメントを投稿しよう!