右の目の海

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「左之吉さん、あんたと目玉売り屋さんのおかげで最期に良いものが見られましたよ」  三途の川の渡し場に左之吉とおえんは並んで立っていた。一度抜け落ちたおえんの右目は綺麗にはめ直されている。 「そりゃあ良かった。あんた、真面目に生きたから冥府での裁きも厳しくはないだろう」  他の亡者達に混じって渡し舟に乗り込むおえんを左之吉は見送る。 「じゃあねぇ、左之吉さん。本当にありがとうございました」  舟に乗る前に、おえんは振り返り、左之吉に向かって改まって丁寧に頭を下げた。  そして、再び頭を上げた時、おえんはもはや老女の姿ではなかった。桜色の頬をした、純朴そうな少女が背筋を真っ直ぐに伸ばしてそこに立っていた。  死人とは思えぬ程に健康そうな少女は浮き立つような足取りで舟に乗り込む。  骸骨姿の船頭が櫓を軋ませ、舟はゆっくりと岸から遠ざかっていく。魂達をあの世に送るために。  舟の上で柔らかな川風に後れ毛を揺らしているおえんはもう振り返らなかった。  左之吉は遠ざかる舟を見送りながら、彼女がいずれ海の近くに生まれ変われれば良いと思った。
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