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悪友
車を自分のマンションへと置きに戻り、スーツからジーンズに着替えた。ルカの部屋から持ち帰って来た荷物は、玄関に置いたまま片付ける気が起きなかった。
タクシーを待つ間、ウロウロと部屋を歩き回る。そうでもしないと、泣いてしまいそうだった。
別に1人だから誰もみてないし、泣いても良いんだけど。
ずっとバッグの中のスマホが震えてる。見なくても分かる。ルカだ。
冷蔵庫からペットボトルを取り出し、ゴクゴクと飲んだ。緊張して喉が渇いていたことに初めて気がついたの。
カーテンを開けて外を眺める。5分もしないうちにタクシーが来たので、財布とスマホそれに部屋の鍵をポケットに押し込み慌てて部屋を出た。
アレックスとの待ち合わせは、車で10分程の繁華街にあるバー。
タクシーの支払いを済ませ車を降りると、道路の向かいにある店へと入った。
「いらっしゃい。今日はひとり?」
顔見知りの店員が声を掛けてくる。
「え…ええ」
「彼氏さんお元気ですか?」
「ええ…まぁ。」
歯切れの悪いと社交辞令の笑顔を見せる。
…“元”彼氏な。
「皆んな居るよ」
店員は奥を指差した。
「ありがと。」
常連のミカに店員は案内もしない。
…フルメンバーだ。
店の奥には、パンクロッカーや真冬なのにビーサン履いてる学生風の男子だったり、レディボーイも混じってる。
…やっぱ…やめようかな。
いつもの“えげつない”集団をみて、今夜はやっぱり帰ると言いかけた時だった。
集団の中で一際目立つ、ひょろりとしたスーツ姿の男がこちらをみて、手を挙げた。
アレックスだ。
そして続けざまに早く来いよと言わんばかりに、手招きをした。観念したミカは、ダンジョンのような、薄暗い店の奥へと進む。
混んでいる店内でも彼らは明らかに目立つ存在だ。
「よお。思ったより元気そうだな」
にやっと笑ってアレックスが言った。
「男はいっぱいいるぜ?落ち込む必要はないよ」
アレックスが既にみんなに話したらしい。
「そうよ!ルカは、確かに可愛かったけ…ど」
レディボーイのビンセントがワイン片手に手をひらひらさせながら言いかけたが、友人が“彼女”に目配せしたので、それ以上は言わせなかった。
「まあな。男はおっぱいに張りがある若い女が良いもんだ。要するにお前は負けたんだ」
アレックスは容赦なく痛いところを突いてくる。
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