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『おじさん、猫すき?』
寒空の下、公園のベンチに座っているときに一人の少年が急に声をかけてきた。私はいま、それどころじゃないというのに。けれど、無下にもできず
『うん、好きだよ』
と、一言返す。
『じゃあ、この猫飼ってよ! この中に入ってた餌も全部食べちゃったみたいなんだ。明日には死んじゃうよ』
『……おじさんは飼えないよ』
『なんで? 猫すきって言ったじゃん!』
『……おじさんはもう死んでしまうから』
最期のわがままだったのかもしれない。見ず知らずの、そしてまだこんなに若い少年に自分の死を告げるなんて。希望に満ち溢れた少年に死を宣告するなんて。最期に、誰かに、誰でも良かった。自分がこの世界の記憶から一欠片もなく消えてしまうことに寂しさを覚え、自分が生きていた証を託したかったのかもしれない。
『なんで? なんで死んじゃうの?』
本当の死を知らない少年は不信がることもなく、素直に聞いてきた。
『もうおじさんは、疲れてしまったんだ。仕事でも上手くいかなくてね』
だからこそこの少年に素直に本音で返せれた。
『なんのお仕事してるの?』
『プログラマー、ってわかるかい?』
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