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『分かんない。でもおじさんは、ぷろぐらまーっていうの嫌いなの?』
『うん、そうだね』
この少年に、プログラマーという夢が生まれなくなってしまったら、きっと私のせいだ。でもそんなことはもういいのだ。最期なのだから。
『じゃあ、おじさんの好きなことすればいいじゃん!』
純粋無垢でいいなとしか思えなかった。何十歳も離れたこの少年を恨めしく、そして羨ましく思った。
『もう、だめなんだよ』
もう、好きなことをするには歳を取りすぎた。
『おじさんが死んじゃったら、この猫も死んじゃうじゃないか! そっちの方がだめだ!』
だめと言われても、最期の人間に、他人の、ましてや捨て猫の心配なんてできない。
『おじさん好きなものは何? それをしようよ!』
『……珈琲が好きかな』
唯一の趣味は珈琲屋巡りだった。昔ながらの純喫茶でジャズを聞きながら本を読むことが好きだった。
『なら、珈琲屋さんね!そうしたら、この猫も一緒に働けるよ!』
猫と働く、そんな発想が可愛らしくて少し微笑んだ。
『珈琲ってどう作るの?』
『……豆を挽いて、お湯を入れて……』
『ひく?豆をひいちゃうの?なんか難しいや!』
『そうだね、難しいよね』
『でもおじさんなら大丈夫だよ! このくろまめ、あ!』
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