エピソード0 バサラブ氏、居座る

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そうして燦々と日光が降り注ぐ7月の東京。 時刻は正午。 平日の正午で連日の猛暑ともなれば、路上に人影が少なくても不思議ではない。 そんな状況で、平然と日光を浴びていたバサラブは、うきうきと不動産屋のドアを開けて中に入った。 それから数時間後。 「フェクテ。ネグル。出てきなさい。」 購入したマンションの一室でバサラブが名前を呼ぶと、足元の陰からゆらりと人影が二つ生まれた。 使い魔である。 一人をフェクテ、ハンガリー語で「黒」。 もう一人をネグル、ルーマニア語で同じく「黒」。 黒いシャツに黒いスラックス、顔の大半を隠している髪も黒。 その顔に、表情らしい表情は浮かんでいなかった。 違いと言えば、フェクテは20代半ばの青年、ネグルは10代半ばの少年というところだろうか。 使い魔なので、外見はバサラブの好みなのかもしれないし、単に使い分けするために違いを出しただけかもしれない。 おそらく後者だ。 バサラブは、己の命に忠実なだけの使い魔に、楽しみを見いださない。
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