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「さて、ではおまえたちにこれを渡しておこう。」
そう言ってバサラブが二人に差し出したのは、鍵だった。
受け取ったフェクテが、首を傾げる。
「このようなものがなくても。」
これは、マンションの玄関のドアの鍵だ。
しかし、使い魔である彼らは、常ならばバサラブの影の中に潜んでいるし、表に出ているときもおそらくは人の姿を解いてこの部屋に出入り自由なのだ。
なにしろ影に潜めちゃうわけだから。
「何を言うか。人間の社会に混じって暮らすのだぞ。ここは一つ、人間と同じように生活しなくては楽しくあるまい!」
だから、出入りもエレベーターを使うと言い放つバサラブに、表情のない二人がちらりと互いに視線を交わし、それから頷いた。
「では、ありがたくお借りいたします。」
「うむ。」
「それで、今宵はこれから。」
「このマンションにどのような人間が住んでおるのか、明日からの楽しみのためにも確認しておくというのはどうだ。まさか訪ね歩くわけにもいかんので、窓から覗くだけにしておかんと。万事控えめに行動せんとなあ。」
「主。窓から覗くのはおそらく人間社会では犯罪です。」
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