エピソード0 バサラブ氏、居座る

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フェクテがそう言って暗にやめてくださいと制止してくれたが。 8階建てマンションで、すべての部屋を窓の外から覗くこと自体、人間はしない。 そこに気付け。 バサラブはその指摘に気づくと、おお、と呻いた。 「そうだそうだ、不便なのだった。いや、だが。」 転んでもただでは起きない、それがバサラブ。 「むしろ!明日から人間とどのように出会い知り合いになるか、それを楽しみにすればよい。うむ、そうしよう。」 ポジティブ・シンキング、それがバサラブ。 制止した結果、自分を人間と偽って住人たちと知り合いになろう計画が生まれてしまった。 人間社会で人間の生活を堪能しながら人間観察の予定が、人間とふれあいましょうの体験型に変わったことに、ネグルは無表情のままその考えが生まれるきっかけを作ったフェクテの脇腹を小突いた。 そう、何度でも繰り返す、バサラブは参加型。 見ているより自分も参加して体感したい派。 彼にとって人間社会に混じることは、テーマパークのアトラクション感覚に他ならない。 「明日が楽しみだなあ、あっはっは!」 バサラブの豪快な笑いが、何もない部屋に響き渡った。
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