エピソード0 バサラブ氏、居座る

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かくして、最初に会った人間に話しかけて友達になろうミッションが、本当にスタートしてしまった。 よいことを思い付いたとうきうきしながら、バサラブは行動を起こした。 キングサイズのベッドと24本のボトルが入る家庭用ワインセラーだけが鎮座していて常にカーテンの閉められている部屋を後にし、ドアから出る。 時刻は午後11時過ぎ。 それが人と知り合うのに適切な時間かどうかは、考えていない。 誰かと遭遇するまで、部屋とエレベーターとマンションの入り口を往復しようと誓いながら、エレベーターのボタンを押した。 非常に迷惑な行動なわけだが、バサラブは自分の案が楽しくてしようがない。 そして、不幸なことにひっかかった人間が一人。 「このような時間に、一人で外出かね。」 5階でエレベーターが止まり、乗ってきたのはまだ若い女性。 ジーンズにTシャツ、小さなショルダーバッグを斜め掛けした女性は、エレベーターの中の巨大な外国人に一瞬ぎくりとした。 目を合わせないように乗ってきた女性に、バサラブは話しかけた。 女性が息を飲み、怯えて体を固くするのが伝わる。 これだーーこれこそ生きた交流、有意義な時間ーー! 感動し興奮するバサラブと同じ空間で、上原睦月(うえはらむつき)は冷や汗を流していた。
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