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「このような時間に、一人で外出かね。」
突然、頭上から声が降ってきた。
睦月は脳内で絶叫する。
『あ、ああ、あいきゃんと、すぴーく、いんぐりーっしゅ!』
日本語だということに気づかない。
豊かなバリトンのその声は、妙なる美声であったのだけれど、それよりも見ず知らずの外国人に話しかけられたという事実に、睦月の心臓はばくばくと煩く鳴った。
『早くーー早くーー早く1階についてーー!』
やがて、エレベーターが1階に到着すると、睦月は転がり出るように外に飛び出した。
しばらく走ってから後ろを見て、ついてきていないとわかるとほっとして止まる。
怖かったという気持ちが収まってくると、今度は自分の態度に落ち込む。
もしかしたら、上の階の住人の客だったかもしれない。
外国人だから、日本人と違ってフレンドリーに挨拶してきた程度かもしれない。
なのに、ろくに返事もしないで、逃げるように出てきてしまった。
「ああー・・・私、日本人の印象、悪くしちゃったー・・・」
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