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「おお、すまんすまん。忘れておった。わしの手は冷たかったのだった。」
バサラブは、コートの内ポケットから革の手袋を出して両手にはめた。
「これでいいかね、お嬢さん。」
再び差し出された手に、睦月はおずおずと自分の手を乗せた。
そのまま優しく立ち上がるのを助けられる。
「す、すみません、私、助けてもらったのに・・・」
自分の危機を救ってくれた相手だというのに、手が冷たいというただそれだけで、手を思いきり振り払ってしまった。
しかも、エレベーターの中で自分に話しかけてきた外国人で、そのとき自分は無視したというのに。
申し訳ないのと、怖い思いをしたのとで、睦月の目がぶわっと潤む。
「け、け・・・さつ・・・警察に連絡しなきゃ・・・」
半泣きの状態で、それでもスマホをバッグから出した睦月を、バサラブが止めた。
「あの男ならば、わしの部下を憑かせたから心配はいらんよ。他のレディーにもあのような無礼極まりない真似をしたら、即断罪するよう命じてある。」
「ぶ、部下?」
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