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思い出してまた怒り出す睦月を、バサラブは楽しそうに見つめながらまあまあと宥めた。
冷めない内にと促され、睦月はナイフとフォークを手にした。
だが、おずおずとバサラブを見つめる。
「あの、私、おごってもらうなんて・・・」
「気にする必要はない。」
「でも、あなたはその・・・」
「わしはこれで十分。おお、珍なるかな、安価な量産品の混じり物の味は。」
ワインに口をつけて、これまた面白そうに呟くバサラブに、睦月は一度手にしたカトラリーを置いた。
「マンションのエレベーターで無視してごめんなさい。」
「無視?はて?」
無視されただろうかと、バサラブは思い起こす。
怯えて震える彼女の姿を思い出し、ひ弱な人間なのだからあのような反応をしても仕方なかろうとまったく気にも留めていなかった。
むしろ、生命を間近に感じられて楽しかった。
「では改めて挨拶をしよう。わしはアレクサンドル・バサラブ。8階に越してきたばかりなのだよ。」
「そうだったんですね。私、上原睦月です。5階に住んでます。」
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