エピソード0 バサラブ氏、居座る

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もう一度言おう。 彼は、アレクサンドル・バサラブ。 ヨーロッパの吸血鬼社会の中で最も巨大かつ強大な一族の長にして、齢1000歳を超えると言われる古きもの。 吸血鬼は、一種類ではない。 国々で人間から呼ばれる名が異なるように、人間にも人種が存在するように、吸血鬼だとて種類はあるのだ。 その中で、彼の一族は大部分の人間が吸血鬼と定義づける吸血鬼像に最も近かった。 いわく、日光が弱点。 ニンニクにも弱い。 十字架も聖水も銀も白木の杭も聖書も。 力が弱ければ海も渡れない。 ただし、肉体的な力は絶大で、人など軽く引き裂いてしまう。 血を吸われたものは、死ぬか、グールとなって他の人間を襲うか、稀に吸血鬼の仲間に迎え入れられるか。 夜に活動し、その赤い瞳で見つめられたものはたちまち術にかかって抵抗できないまま己の首を差し出すことになる。 人を餌とみなす、恐るべき吸血鬼。 その長であり、楽しみながら弱点の数々をほぼほぼ克服し終えて幾久しいバサラブは今、はるか故郷を遠く離れて極東の島国である日本に来ていた。
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