47人が本棚に入れています
本棚に追加
0.プロローグ
「俺を恨まないでくれよ。龍神さま。」
鈍く光る甲冑に身を固めた男がいた。両手で握られたのは両刃の大振り。
男は目の前に眠るモノを眺めていた。その身体は小刻みに震え、大振りのそれは柄のあたりからカタカタと金属質な音を響かせる。
真っ白な鱗、真っ白な翼、真っ白な角。それは空の光を反射させ白銀のものとなっていた。
「今更躊躇うのか?」
男の後方にはもう一人。いや、人なのだろうか。辺りを雲に囲まれたソレはひたすらに大きく、人では無いように見える。
「いや、躊躇うことなんて.......何も無い。」
音も出さずに眠り続けている白い竜。死んでいるんではないかとすら感じさせるその白銀の瞼の隙間に男はそれをねじ込んだ。
ブワッと吹き出す真っ赤な液体。鈍い銀色の光を放っていたそれは真っ赤に染まり、元の色も光を反射することも無い。体を真っ赤に染め上げた男が荒い息を吐き出してもう一度息を吸い直す。
「すまない」
突き刺さったそれをまるで中のものを掻き出すかのように内部で抉る。一周、二週と回したところでようやく目的は達せられたのか高さだけでも男の胸元まである半球状のものがゴロンと男の足元に転がった。
「ガァァァァァァァァアアアアァア」
突如竜が咆哮する。顔を持ち上げるが空洞になったそこからは大量の液体が辺りに溢れ出す。そしてその液体は足元に留まることなく大地へ赤い雨となって降り注いでいく。
「ゆ、許してくれ。仕方なかったんだ、仕方なかったんだ.......。」
体を震わせた男は腰を抜かしたのか、その場に座り込みズルズルと後退する。しかしそんな様子の人間を無情な竜の碧眼が捉える。ゆっくりと持ち上げられる竜の腕。ギラギラと光る白銀の鉤爪は掠っただけでもその身をただの肉片へと変貌させることは必至だろう。
勢い良く振られた腕。
「申し訳.......」
閉じられた瞳。
男が肉片となることは無かった。軌道が逸れた爪は男の目の前に転がるソレのすぐ手前に柔らかく着地し停止したからだ。
最初のコメントを投稿しよう!