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男が目を開く。目の前で動くことが無くなった竜が映ったからだろうか、ホッと胸を撫で下ろす様子が伺える。自身の足を確かめるようにして立ち上がる男は竜のもう一つの瞳を確認するが、閉ざされた瞼は開きそうに無い。
「やれば出来るではないか、人間。それはもう貴様のものだ。お前の求めていた神の力とやらも栄光も武勇も、その全ての塊がその目の前に転がるモノだ。持ってゆけ。」
男は震えの止まらない両手を目の前のモノに伸ばす。そしてそれをなんとか抱える。
すると男の体を赤い何かが包み、景色は下降して行った。
「俺は.......これを食うのか?」
「その為に危険を冒したのだろう?我もその為に態々いくつもの災害を引き起こしたのだから、それを無下にだけはするでない。」
男のノドから音が聞こえた。
「さようなら人間。.......。」
真っ赤な影は何かを言い残すとそこから姿を消した。
「頂く.......それしかない。」
言い聞かせるようにゆっくりと掠れるような声で男は呟く。そしておもむろに男はかぶりついた。男の口元が真っ赤に染まり、足元には音を立てて滴っている。
辛そうに目をを閉じる。しかし閉じられた瞼の隙間からは涙が頬まで伝っている。
そしてのどが音を鳴らし、瞳が開かれるとその左は碧い色へと変わっていた。
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