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1.確定事象
白い竜が息を吐く。色も無いその吐息は空気を歪ませ青い炎となる。そしてその正面に対峙する黒い竜は器用にその発達した脚で地を蹴り後方へと跳ぶ。当たってしまえば燃やし尽くされてしまうのではないかと思われるほどの炎だったが、辺りを覆う程の炎は周囲に融解するように一瞬で消える。
「ど.......う.......して.......。」
地に這いつくばる女が絶え絶えの声を出す。白い竜は憐れみを込めたような瞳を彼女に向けるが、その目線は一瞬のもので直ぐに違うものへと向けられる。
「こ.......たえ.......て.......よ.......。」
虚しさすら感じさせる声は既に誰にも届くことは無いだろう。つい先程まであったはずの温もりも寒空に消えているだろう。
そんな様子に何を感じたのだろうか。白い竜とそれを見据える黒き竜は互いにその瞳を閉じていた.......。しかしその瞳は光を求めたかのように勢い良く開かれる。
白きそれは翼を広げ口元から零れる青い吐息を撒き散らす。発達した翼は蝙蝠の様であるが、それを巨大化してその端々には鋭い鉤爪がある。
頭には二本の湾曲した角とそれに並ぶように短い角が二本並び身体中を爬虫類の様な鱗が覆う。翼の付け根から別れるように伸びた短い腕の先には三本の真っ黒な爪が光沢を放つ。しかし、その後ろ足には腕を軽視させてしまうほどに巨大な爪が四本。陽の光を体に反射させ飛翔するその姿には神々しさを感じさせる。
対して黒く、周囲すらも染め上げるその竜の体は古代の爬虫類.......言うならば恐竜のそれに酷似しており発達した後ろ足はバネのような柔らかさと力強さを感じさせ跳躍力と瞬発力に長けていることが伺える。大きく開かれる口には恐怖を感じさせる牙が所狭しと並び、噛まれれば致命傷は必死であろう。
「最後の試練。お前が相応しいかを見定める為に俺はここに居る。」
邪悪さすらも感じさせる黒い竜は、吠えるように.......しかし無機質な声を発する。強く地面を掴む脚は音を立てて筋肉が縮小していく。今にも飛び掛りそうな姿勢で黒い竜はただ空の竜を睨んでいた。
「私は最も罪深き、最も人間に近しい者。私は全てを受け入れる。無論貴様も含めて。だがその暁には私の友は返してもらう。」
白い竜はゆっくりとした口調で言い切ると、その声をかき消すように一際大きな咆哮をあげる。怒りも悲しみも何もかも。一体何を感じ何を思うのかは分からないがその咆哮は大地に響き、大きくそれを揺らす。
「お前の知り合いが戻るかはお前次第だ。我はただ裁定を下すだけのこと。祈れ。」
黒き竜は大きく跳躍し、白い竜へと飛び掛る。そして真っ赤に染まった爪で白い竜へと襲い掛かった.......。
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