47人が本棚に入れています
本棚に追加
「へぇ、ヴァイスね。なんでこんな所に素っ裸でいたのかとか色々聞きたいけど、取り敢えず街まで行こうか。俺の姉さんと.......あと誰か.......いや、思い出せないけど誰かがよく言ってたんだ。困ってるやつが居たら手を差し出してあげろって。兎に角着いてこいよ。」
私は彼に引っ張られるようにして街まで歩いた。
不思議なのは人間の肉体という初めて使うこの体が妙な程にしっくり来ている。歩く、話す、触る。
全ての司令が元の肉体とほぼ遜色ない程にスムーズに伝達されてる事を感じる。
体を支える二本の細く頼りない足で大地を踏むことも悪くは無いと思える程に。
街につき、辺りを見回すことでようやく自分のいる位置に凡その予想がついた。辺りを囲む山々、それらに群がる人々。鉱石の採掘がここまで盛んな街はこの大地に二つと無いだろう。
普段は空から見る景色。そして今の実際にその場に立って見る景色は同じ場所であってもなかなかそれには気づけないのだと実感した。
なんと言っても、翼もない、強靭な足もないとなれば移動も一苦労なはずなのだから。ふぅ.......と息を吐きまた歩き始める.......が。
「クロズミ、邪魔だ。」
ドンと後方から強い衝撃を受ける。制御しきれなくなった体は前方に放り出されるが、近くにあった柱に衝突して静止する。何が起きたか、分からないと言われれば全く分からないが想像に難しくは無い。
「ヴァイス!!」
「私に何の用だ。」
振り返れば想定していた通り嫌な笑みを浮かべた男が立っていた。金色の装飾を身にまとったその男は周りに数人の人間を引き連れて道の中央でただ嗤う。
「用なんてねぇよ。ただそこに居たから邪魔だと言っただけと言うか何?その眼?」
明らかな敵意。しかし、その敵意というものは今まで味わった事がない種類のものであった。対等.......いや、その目はまるでゴミクズを見るようなもので向けられているのは間違いなく私であろう。
正真正銘初めて。この種の屈辱は想像したことすらも無い、初めてのものだ。
「平伏せ。」
私はゆっくり右手を上から下へと振る。しかし、その腕は何を掴むわけでもなくただ虚しく空を切る。
「あはは、何それ?神様にでもなったつもりってか?」
最初のコメントを投稿しよう!