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「死んじゃえば?」
目の前に迫る拳。私は右手を振るうが、それが男に届くことはなく胸元に受けた拳によりその場に膝をつく。
「ヴァイス!お前ら.......。」
「何?もう一人も痛い目に合いたいって?」
男達はシュラスに詰め寄る。素手ではあるが、シュラスより二回りは大きな男が四人。私が叫ぼうと何かしようと彼らが止まることは無いだろう。
ドッ
鈍い音がした。そして腹部を抑えて一人の男がその場に蹲る。
「貴様.......。」
蹲る男が唸るように声を上げて周りの男は一気に殴りかかる.......が、その拳はほぼ全てが虚しく振られるだけでシュラスが倒れることは無い。
「いい加減にしなさい。」
突如として聞こえた声。透き通るような美声と中性的な容姿。青い服には鳥を象ったような紋様が描かれている男が男達を静止するようにシュラスとの間に割って入っている。
「この様な公衆の面前で荒事を起こすとは流石は中流貴族ですね。あまりに不快な様子ですと貴方たちの権限も全て剥奪することも出来るんですよ。」
「あ、あ、いえ。申し訳ございませんミレア様。」
男は跪いてミレアと呼んだ男に許しを乞う。その姿は先程までとは完全に別人のものであった。
「分かればいいんです。但し次はありませんよ。やるならば静寂で迅速に、これは基本です。」
ミレアはそう告げるとこちらを一瞥して、大通りを歩いて行く。
「気をつけてくださいね。」
優しそうな声。しかし薄らと見えたその目は先程の男の目とは比べ物にならない程冷たく無機質で、酷いものだった。
「大丈夫か?ヴァイス?ごめん.......俺の渡したその服のせいだ.......。クロズミの服.......それ以外のものを着ていればヴァイスがそんな目に合うことは.......。」
シュラスが申し訳なさそうに俯く。だが実際私はこの程度なんとも思っていない。
「あぁ。気にしてないさ。」
派手に飛ばされ、派手に殴られたものではあったが傷自体はほとんど無い。あってかすり傷程度のものであろう。
「そうか、なら良かった.......けど心配だからとりあえず着いてきて。」
シュラスはそう言って私の手を引く。その力は驚く程に強い。そしてその目はどこか悲しそうに見えた。
街の中を行く。ガヤガヤと雑音がひたすらに響き活気があることだけを私に告げる。
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