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私は未来が見える。
より正確に言うならば、未来の道筋全てを見ることが出来るのだ。
例えるならば、仮にA君とする男が買い物に行くとする。
A君は買い物に行く前に忘れ物に気づき一度帰ってる間に、目的のものが売り切れてしまっていた。
しかし、私には仮にA君が忘れ物に気づかずに買い物に行き目的のものを買える未来も見えるのだ。
その分岐点は無数に存在するが私は短い未来なら全てを把握することが出来るのだ。
私は神に与えられたこの眼と、時間を飛ぶ力で幾つもの分岐点を望む方向へと変えてきた。
しかし、約百年ほど昔私の眼は。私の左眼は。
忌まわしき記憶だ。私の左眼は人間により奪われてしまったのだから。
人間により奪われた。だが、私が根城としていた高き空は人間等には到底辿り着けぬ場所。
つまりは奴らのどれかが。
考えれば考える程に忌まわしい。私が時間を飛べれば。過去へと帰れれば。
そんな願いも虚しく、失った左眼と失ったタイムリープ能力。
残ったのは怒りのみだった。
冷たい。ヒヤリとした感覚と、体がゆらゆらと動いてる感覚に急速に意識を覚醒させる。
「ヴァイス……大丈夫か?」
夢……。
あまりにもリアルな自身の怒りの感情。
それはどうやら夢の中での事だったようだ。
「すまない。少し嫌な夢でも見ていたようだ。」
心配そうに見つめるシュラスとその姉。俺は精一杯笑ってみようとするが、人間の真似はどうも上手くいかない。
ふぅ、と小さく息を吐けば代わりにとてもいい香りが戻ってきた。
「寝てたみたいだったから、そっとしてたのだけれど用意ができて来てみたら何かに魘されてるみたいだったから……。
落ち着いた?」
「あぁ……。」
いい香りは彼女の作った料理からのようで、冷静になった体はどうやらそれらを欲してるように感じた。
「良かった。なら食べましょうか。」
私達は彼女の作った食事を頂いた。
人間の食べ物という物も初めて食べたが、何度も食べたことがあるかのように感じた。
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