絶望と光

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私はためらいながら震える手を動かし,巧の背中にそっと触れた。 ─あったかい…… 私は初めて巧と“抱き合った”気がした。 今思えば,巧はいつだって私を思ってくれていた。 そんな巧に気づいていながら,私はきちんと向き合おうとせず逃げていた。 それなのに,また巧は私に救いの手を差し伸べてくれている。 ─もしかしたら巧を傷つけてしまうかもしれない… そんな思いが私をためらわせる。 「…こんな私で……巧は本当にいいの……?」 巧の呼吸をからだ全体で感じる。 「…あぁ。奈津美が隣で笑っていてくれるなら何だって良い」 巧がまたギュっと力を入れた。 もう言葉はいらなかった。 私は,決めた。 巧にに答えるかのようにギュッときつく抱きしめ返した──。 *
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