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言うと、佳乃は初めて、こんなスカウトなんてされたし、胡散臭い感じは否めないが、今はお金が必要だった。だから、スマホを取り出すと、
「ちょっと電話してきます」
「はい、待ってます!」
男が機嫌よく応えると、佳乃は面接のキャバクラに電話をし、今日行けなくなったことを伝えると、スマホの通話を切って、バッグにしまった。その間に、男も電話をしていて、佳乃はその電話を待って、終話したのを確認すると声を掛けた。
「断りました。で、今日、そこで一日体験は出来るんでしょうか?」
「ありがとう! うん、出来るよ。じゃあ、この先にある店で、black&whiteっていう店だから、一緒に行こうか。今全部確認したから。あ、あといくつかな?」
「二十四です」
「若いね! イイね、スタイルも良いし、売れると思うよ~」
飄々と口笛を吹くように言う男。それから男が、スマホを持って、
「あ、俺、スカウトの岡田っていいます。一応、連絡先交換しておこう。もし、そこの店が合わなかったら、他にも色々な店、紹介できるからさ」
「あ、はい」
言って、二人は電話番号とチャットアプリで連絡先を交換した。
佳乃は、夜なのに明るい繁華街を知らない男と肩を並べて歩いていることや、自分が水商売にスカウトされるなんてことがあるなんて思ってもいなかった。
今まで自分の生活ではなかったスパイスが足されていく感覚が、地に足がついていないような、ときめきにも似た気持ちが湧いてくるのは否めなかった。自分も、カズと同じ仕事が出来ることが、素直に嬉しく思う。同じ土俵に上がれる自分に自信が持てる気がしていた。
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