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「だって、もうこれ、勝負決まってるじゃん。私にあの人たち興味ないもん」
言って、店員さんを呼ぶと、
「八海山、熱燗で二合お願いします」
言って、肉を口に入れると、佳乃は嘆息して、
「あんた、もう投げてるってことなのね。まあ、向こうの奢りだし、飲んだら? 折角明日は休みだし.......いいんだけど.......」
佳乃は、それだけ言うと、先輩たちの会話に混ざろうと、梨子に背を向けた。
梨子は咀嚼しながら、じいっとメニューを見た。次は何を飲んでやろう、何を食べてやろう。どうして先輩も、佳乃も、こんな合コンに必死になるのだろう。
恋って、突然訪れるものなのじゃないのか。そんな淡いことも思っていたが、毎日のように合コンをしていると、たまに男子に誘われたり、電話番号を交換したりして、連絡をいくらか取ることがあっても、どうも長続きしない。
梨子自身もそうだったが、恋人が欲しいというより、自分の心の空洞を埋めるための作業になっている人も多いのではないかと、どこか達観した考えが頭の中にあった。
それから、日本酒が熱々の徳利に入れられて出てくると、男子たちが、
「渋いね! 日本酒好きなんだ?」
と、笑顔で問いかけてくるも、梨子は、作り笑顔を必死で作って、
「私、酔うと、ストレス発散になるから。強いの飲みたくて」
言って、おちょこに男子が注いでくれると、梨子は「ありがと」と言って、一気に飲み干した。さっきまで梨子に興味を持たなかった男子でさえ、梨子に声を掛けるようになった。先輩たちの顔を見ると、不機嫌そのもので、先輩たちは猫なで声を出して、
「私は強いお酒とか飲めないしぃ」
と、流し目を決めていた。梨子はお構いなしに、自分の中にある、混沌とした気持ちを消すように、どんどん日本酒を流し込む。メニューを広げて、また店員を呼ぶと、
「ジントニックと、ハイボール。あと、八海山二合と、アボカドスライスお願いします」
言って、小さく、ひっく、としゃっくりをすると、梨子はそこから視野がぼやけてくるのが分かった。
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