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木偶
夕暮れ時、もう太陽は沈みきって、その残り香のような空の赤さだけが夜の深い青とまじりあって不思議な色合いをたたえ、周りの景色はひっそりとその色彩を潜ませている、そんな時刻のことでございます。
私の目の前に一人の子供が立っておりました。
何処から来たとも知れぬその子供は、十歳かそこらに見えましたが、思わず目を奪われるほど、美しい子供でした。透き通るような白い肌に、ゆるく波打った金髪は絹のようになめらかで、やわらかく丸みを帯びた頬をほんのりと紅く染めた子供は、大きく見開いたブルーの瞳をこちらにまっすぐ向けていました。とてもこの世のものとは思われない容貌に私は言葉もなく、ただただ呆然とするばかりでございます。
頭の隅で、『天使』という言葉が浮かびました。人の身ならぬ天使の姿は、確かにこのようでありましょう。
こんにちは。
そう言って子供は、ほんの少し笑いました。それは美しい子供だけに許された、特別な種類の笑みでした。
君はどこから来たの。
私がおそるおそる尋ねますと、少年はちょっと考えたふうに首をかしげて、
空から。
空からとは―――本当にこの少年は天使だとでもいうのでしょうか。
君は天使なのかい。
ううん。
神様か。
違うよ。
では人間?
それも違う。
私はすっかり困ってしまいました。彼はいったい何者だというのでしょうか。
困り果てた私の顔をさも愉快そうに眺めながら、少年はまた話し始めます。
僕は人形だよ。からくり仕掛けで動く、ただの人形。
人形?どれほど目を凝らしても、作り物のようには見えません。
まあ僕を作ったのは人間でなくって神様なんだけどね。
神様?
そう。神様。僕の話を聞きたい?僕が生まれた時の話。
少年の誘うような声に酔っていた私は思わずうなずいておりました。
じゃあ全部教えてあげるよ。
そこから少年の身の上話が始まりました。
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