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5月にしては肌寒い風になびく髪を押さえ、急いでタクシーを降りた。駅のトイレで塗り直したグロスに巻き髪の毛先がひっついてイライラする。運転手さんに心在らずのお礼をして、騒がしい夜のガーデンパーティ会場へ向かった。 最近、営業の隙間時間に百貨店で購入したカジュアルな淡いシャンパンゴールドのワンピースに黒いベロアのジャケット。衣装は地味にして髪もナチュラルに巻いて、メイクに力を入れた。チームのメイキャップアーティストに泣きついて、ランチを奢ることで手を打ってもらった。安いもんだ。ベテランの彼女がメイク会で技術指導した場合、お客さんは一時的な美しさと引き換えに数万円は彼女に貢ぐことになる。 スキンケアで保湿して、アラサーらしくベースメイクに時間をかけ、ポイントメイクは力が抜けた自然な仕上がり。唇には色と質感をたっぷり入れて… 「ハイ、キャリアウーマン風イイオンナの出来上がり」 寝る暇を惜しんで働く姿勢は評価してるけど、化粧品会社の営業なんだからいつもこれくらいしてよね、と背中を叩かれた。鏡の中の私は仕事中より自信のない、曖昧な笑みを浮かべていた。     
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