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前編 宮本武蔵 蓮台野の決闘
十六夜の月が美しい夜だった。
戦国の世も終わりを告げた慶長9年(1604年)、
京の北の外れ、ここ鷹ヶ峯にひっそりと佇む一軒の草庵がある。
(写1.2)
庵の主の名は本阿弥光悦、
かの俵屋宗達の師にあたる。
当代きっての文化人であり、刀剣、書画等様々な分野の目利きとして時の権力者達に愛された人物だった。
草庵と呼ぶには余りに広々とした邸内は、光悦垣と呼ばれる美しく竹を編んだ垣根で被われており、凛とした印象を与えている。
(写3)
今宵、光悦は六条三筋まで出掛けて不在であったが、
その離れには野道で足をくじき、
そこを通りかかった光悦の厚意から暫しここに逗留する事となった旅の女と、
母屋には光悦の母であり尼の妙秀とその侍従が居るばかりだった。
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