5章:棒を掲げるブルドッグ

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「本当にズルい人ですね」 思えば、出会った時からそうだった。 この人は僕を利用しようとしてここへ連れてきた。 そして今でも、いろんな意味で利用されているだけなのかもしれない。 「とりあえず、競技場までタクシーだな。お前も早く着替えろよ」 その証拠にこの人は、今この時もやっぱり僕に手伝わせる前提で話を進めている。 「本当にあなたは……」 「なんだよ、怒ってるのか?」 バッグを持ち、上着を羽織った相楽さんがこっちを向いた。 その顔を両手で挟み、僕は不意打ちのキスをする。 彼がパチパチとまばたきした。 「怒ってません、もういいです。あなたの勝手に、とことん付き合います!」 「ん……」 彼はほんの少し頬を緩め、愛嬌のにじむ笑顔を見せた。 2019年、東京。 2度目の東京オリンピックが来年に迫っている。 その時もまだ僕は、この人と一緒にいられるんだろうか。 ううん、逃がしはしない。 憧れの人の背中を追いかけ、僕は夜中のタクシーに向かって走った――。 <了> ── 読了ありがとうございました! この物語が少しでも誰かの心に残るものであればと思います。
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