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「本当にズルい人ですね」
思えば、出会った時からそうだった。
この人は僕を利用しようとしてここへ連れてきた。
そして今でも、いろんな意味で利用されているだけなのかもしれない。
「とりあえず、競技場までタクシーだな。お前も早く着替えろよ」
その証拠にこの人は、今この時もやっぱり僕に手伝わせる前提で話を進めている。
「本当にあなたは……」
「なんだよ、怒ってるのか?」
バッグを持ち、上着を羽織った相楽さんがこっちを向いた。
その顔を両手で挟み、僕は不意打ちのキスをする。
彼がパチパチとまばたきした。
「怒ってません、もういいです。あなたの勝手に、とことん付き合います!」
「ん……」
彼はほんの少し頬を緩め、愛嬌のにじむ笑顔を見せた。
2019年、東京。
2度目の東京オリンピックが来年に迫っている。
その時もまだ僕は、この人と一緒にいられるんだろうか。
ううん、逃がしはしない。
憧れの人の背中を追いかけ、僕は夜中のタクシーに向かって走った――。
<了>
──
読了ありがとうございました!
この物語が少しでも誰かの心に残るものであればと思います。
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