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1章:僕と上司とスカイツリー
「待ってください! ポートフォリオだけでも見てください!」
会議室を出ていく面接官に追いすがり、作品集を押しつける。
僕は必死だった。
無理だと思っていた広告代理店から面接に呼ばれて、これが最大にして最後のチャンスだと思いつめていた。
それなのに面接官は作品も見ずに面接を打ち切り、立ち去ろうとしている。
分厚いファイルの角が体に当たり、面接官が嫌な顔をした。
「悪いけど、これが見る価値のあるものだとは思えない。自信のなさそうな顔をした人間は、自信のなさそうなものしか作れない。そんなものは売り物にならない。趣味でやってくれ」
一瞬前までは決死の覚悟だったのに、突きつけられた言葉の冷たさに怯んでしまった。
僕はこの春、美大のデザイン学科を卒業し、就職先を探している。
自分で言うのもなんだけどクラスでは優秀な方で、成績証明書に並ぶ記号は1番上のAプラスばかりだ。
ただ高校の時に大病を患い卒業に人より長くかかったせいで、就職活動では年齢がネックになっていた。
ほとんどの場合は書類選考で落とされて、学校でつちかった僕の自信はとっくの昔になくなってしまっていた。
22歳の新芽のような若者たちの中で、30に手が届きかけた僕の価値が一段落ちるのも分かる気はする。
だけど……。
顔で作品の価値を決められたらたまらない。
「1分だけでも見てください!」
怯んだ気持ちをもう一度奮い立たせ、面接官に詰め寄る。
「やめてくれ、君の1分と僕の1分は違うんだ!」
差しだすファイルを、面接官が払いのけた。
「――あっ!」
ファイルは僕の手から離れ、勢いよく床に叩きつけられる。
硬質な床とポリプロピレン製の表紙がぶつかり、廊下に大きな音を響かせた。
大切な作品を乱暴に扱われ、言葉をなくしてしまう。
目の前に立つ面接官はただ冷ややかな目で、ファイルを見下ろしていた。
(大手だろうとなんだろうと、ここの会社は駄目だ)
落胆とともに落としたものを拾おうとした時――。
「三木さん? どうかしたんですか」
この場の空気に似つかわしくない、軽やかな声が聞こえてきた。
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