1章:僕と上司とスカイツリー

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見ると廊下の向こうから、人懐っこい笑みを浮かべた青年が歩いてくる。 年は30代半ばくらいだろうか。 Tシャツにジーンズといういかにもラフな格好はデザイン業界ならではな感じがする。 そしてそんな格好でもなんだかキマってみえるのは、彼がイケメンだからというよりおしゃれだからだろう。 いかつめなデザインの時計と指輪、それからジーンズの着こなしに、独特のセンスを感じた。 「いや、どうもしない」 面接官は気まずそうに、メガネを押し上げる。 「相楽(さがら)くんこそ、今日は打ち合わせか何かかな?」 「いえ。この前話した映画村のプロモーション、おたくに代わってうちがクリエイティブを担当することになったんで。今日はその引き継ぎ資料を受け取りに」 その言葉に、面接官の顔色が変わった。 「へえ。うちからクライアントをもぎ取るなんて、相楽くんもだいぶ大物になったね。しかしわざわざご足労いただかなくても、資料は送るなりなんなりできただろう」 余裕のある口ぶりだけれども、彼の表情には怒りのようなものがにじんでみえる。 「こっちの担当者の話も聞きたかったんです」 相楽と呼ばれた彼はそう返すと、こちらへ視線を向けた。 僕は慌てて会釈する。     
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