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「うん、いた」
「過去形……?」
「過去形だな、ミズキに言われるまでは忘れてたし」
相楽さんが自重気意味に笑い、僕は思わずその表情に釘付けになる。
「そっか、彼女……」
相楽さんが肩をすくめる。
「俺、男でも女でも、人を口説くのは割と得意なんだよ。それに女は、何もしなくても向こうから寄ってくる」
「つまり……おモテになるということですね?」
皮肉っぽく言ったけど、相楽さんがモテることくらいは僕にも想像がつく。
「そんなにモテるなら、また新しい彼女でも作ればいいのに……。交渉次第で、家事全般をやってくれる人はいるでしょう」
恋愛感情を利用してるみたいであれだけど、仕事ができて家事のできない相楽さんには、補い合える相手が必要な気がした。
ところが相楽さんは、僕の肩に触れながら言ってくる。
「そんなのいい、今はミズキがいるしな!」
「えっ、僕はずっとはいませんよ? 初任給を貰ったら引っ越さなきゃと思って、ちょうど物件を……」
前の休みに不動産屋で貰った、ワンルームマンションの資料があることを思い出す。
「あれ? この辺に置いておいたはずなのに」
「これのことか?」
部屋の隅にあるゴミ箱の中から、相楽さんがその資料を取り出した。
「そう、それ! でも、どうしてそんなところに……」
「お前に出ていかれたら困るから、これはこうしよう」
そう言って相楽さんは、マンションの資料をビリビリと破いてしまった。
「わーっ、なんてことするんですか!」
慌てて奪い返したけれど、資料は見る影もなくバラバラになっている。
「……ミズキが悪いんだろ? 俺に相談もなく出ていこうとするから」
「何言ってるんですか! 僕はもともと、こっちに住むところがないからって理由でここに置いてもらってたんで。初任給を貰ったら、自分で部屋を借りるのが当然です」
「当然ってなんだよ? お前の常識なんか知らねーし」
相楽さんが、あからさまにムッとした顔で腕組みした。
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