1章:僕と上司とスカイツリー

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「それで君は――」 彼の手が、床に落ちたままだった僕のポートフォリオを拾い上げた。 「荒川水樹(あらかわみずき)くん」 表紙に書かれた名前を読み上げ、彼はにこっと笑った。 「もしかして就活中? すごいね、イノベを受けるんだ?」 イノベとは今いるこの会社、電報堂イノベーションズのことだろう。 「でももう、落ちたみたいです」 どんな顔をしていいか分からずに、僕は引きつった顔のまま答えた。 何せ面接は自己紹介の1分で打ち切られ、帰るようにと言われてしまった。 後日郵送されてくるはずの結果を見るまでもない。 僕の言葉が非難じみて聞こえたのか、隣にいた面接官があからさまなため息をつく。 「受付でゲストバッチを返していって。うちはクライアント仕事を受ける会社なんだ、部外者にあまりウロウロされても困る」 彼は言い終わるなり回れ右し、革靴を鳴らして廊下の向こうへ消えていく。 ここにいること自体、彼にとって時間の無駄でしかないんだろう。 その事実に改めて打ちのめされる。 唇を噛み横を向くと、なんと相楽さんが去っていく面接官の背中に向かって中指を立てていた。
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