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「あの……?」
ギョッとしてしまい、僕は思わず声をかける。
すると彼はいたずらっ子のような顔で笑った。
「三木さん、相当感じ悪いよな。イノベなんかに入ったら、あんなふうになるぞ」
「えっ……?」
「ここ、売り上げ目標すごいから」
「売り上げ目標がすごいと、その……あんな感じになるんですか?」
戸惑いながら聞くと、相楽さんはおどけたように肩をすくめる。
「上からのプレッシャーがでかいと、社員は手段を選ばなくなる。そうなると切り捨てるのは良心だよな。そうじゃなくても広告代理店なんてものは、動かすお金がでかいから。でかい仕事を成功させるたびに、脳内でものすごいアドレナリンが出るわけじゃん。その報酬系ができあがると、まあ、人は人じゃなくなるな」
いきなり刺激的な話をされて、返す言葉に困ってしまった。
僕は絵を描くことや物を作ることが好きで、その延長線上にデザイナーという仕事があると思っていた。
そしてデザイナーを独自に抱えようとするのは、大きな会社のデザイン部か、広告、それにWEB業界。
それから大小様々にあるデザイン事務所というところだ。
その中でも広告業界は、デザイナーの受け皿として大きい。
僕がその中で電報堂イノベーションズに応募したのは、とても単純な理由だった。
みんなの憧れる大手企業だろうと、求人に応募するだけならタダだ。
ならダメ元で応募する。
それだけのことだ。
「ここが駄目なのはなんとなく分かってましたけど……だったら僕は、どこを受ければ」
半ばひとり言のように聞くと、相楽さんは唇をへの字に曲げた。
「そんなこと、俺に聞かれてもな」
「そうですよね、すみません……」
「ああでも……」
何か言いかけた彼が、僕の顔を正面から見つめる。
愛嬌のある表情をまとっていたせいで気づかなかったけれど、彼はよく見ると男らしいしっかりとした顔立ちをしていた。
シャープなのに角張った顎のラインなんか、時代劇に出てくるお侍さんみたいだ。
その顎に囲まれた唇が、弧を描いて笑った。
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