1章:僕と上司とスカイツリー

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「あの……?」 ギョッとしてしまい、僕は思わず声をかける。 すると彼はいたずらっ子のような顔で笑った。 「三木さん、相当感じ悪いよな。イノベなんかに入ったら、あんなふうになるぞ」 「えっ……?」 「ここ、売り上げ目標すごいから」 「売り上げ目標がすごいと、その……あんな感じになるんですか?」 戸惑いながら聞くと、相楽さんはおどけたように肩をすくめる。 「上からのプレッシャーがでかいと、社員は手段を選ばなくなる。そうなると切り捨てるのは良心だよな。そうじゃなくても広告代理店なんてものは、動かすお金がでかいから。でかい仕事を成功させるたびに、脳内でものすごいアドレナリンが出るわけじゃん。その報酬系ができあがると、まあ、人は人じゃなくなるな」 いきなり刺激的な話をされて、返す言葉に困ってしまった。 僕は絵を描くことや物を作ることが好きで、その延長線上にデザイナーという仕事があると思っていた。 そしてデザイナーを独自に抱えようとするのは、大きな会社のデザイン部か、広告、それにWEB業界。 それから大小様々にあるデザイン事務所というところだ。 その中でも広告業界は、デザイナーの受け皿として大きい。 僕がその中で電報堂イノベーションズに応募したのは、とても単純な理由だった。 みんなの憧れる大手企業だろうと、求人に応募するだけならタダだ。 ならダメ元で応募する。 それだけのことだ。 「ここが駄目なのはなんとなく分かってましたけど……だったら僕は、どこを受ければ」 半ばひとり言のように聞くと、相楽さんは唇をへの字に曲げた。 「そんなこと、俺に聞かれてもな」 「そうですよね、すみません……」 「ああでも……」 何か言いかけた彼が、僕の顔を正面から見つめる。 愛嬌のある表情をまとっていたせいで気づかなかったけれど、彼はよく見ると男らしいしっかりとした顔立ちをしていた。 シャープなのに角張った顎のラインなんか、時代劇に出てくるお侍さんみたいだ。 その顎に囲まれた唇が、弧を描いて笑った。
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