1章:僕と上司とスカイツリー

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「お前、いい顔してんな」 「え、顔?」 数分前にはさっきの面接官に、自信のなさそうな顔だと評された、その顔だ。 「女ウケしそうっていうか。こういう害のなさそうな顔が、いかにも今風だよな」 「はあ……」 彫刻にでもなったような気分になる。 僕の頬をひと撫でし、相楽さんは続ける。 「就職先。ひとつだけいいところを知ってる。テンクーデザイン。アートディレクター・相楽天の事務所だ」 「えっ……さがらてん?」 脳内で、音が漢字に変換された。 「本当にあなたが、あの相楽天なんですか?」 相楽という苗字を耳にした時から、もしかしてとは思っていた。 けれどこんな場所で出会えるなんて、心の準備ができていなかった。 「相楽って苗字はそう多くないだろ。天なんて名前も珍しいし」 「マジですか……」 素でつぶやき、目の前の彼の顔を見つめる。 僕が相楽天の名前を知ったのは、2年前に開催されたウェセックスオリンピックの時だった。 あの時、聖火とそれに伸ばす手をかたどった、オリンピックロゴが話題を呼んでいた。 パッと見た時の色や形はシンプルでポップだけれど、それを描く線は大胆で力強い。     
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