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優しい声が聴こえる。
味噌汁の香りと焼き魚の匂い。
「おはよう」
と、声は言った。
そこで目が覚めた。
俺は両目から涙を流していた。
白いシーツは、暴れたのか、くしゃくしゃにシワになっていた。
あれは、誰だっけ?
心から愛してくれた。
全てを包んでくれた。
まるで優しい繭の中にいるように、幸福だった。
あれは誰だっけ。
先日亡くした片割れを、思い出しては涙を零す。
ねぇ、猫でも飼って、慰めて貰えばいいのかい?
友達に、電話でもしたらいいのかい?
何をしたって。
何をどうしたって。
埋まらない溝はどうしたらいい。
ずれてしまった歯車のようで、息をするのも苦しいんだ。
君を責めても。
自分を責めても。
なにも変わらないね?
変わらないよ。
俺は、変わらないよ。
ずっとこのまま。
孤独の海に抱かれて眠る。
揺かごは優しくも、あるのだけど。
END
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